目が覚めると、私は薄暗い場所に横たわっていた。
ここはどこだろう。私はこの場所に全く見覚えがなかった。
ポツリ。いくつもの水滴が私の頬を叩いている。ここではずっと雨が降っているみたいだ。私は重い体を何とか起こして立ち上がった。
周りを見渡すが、この場所を包む闇のせいで少し先は全く見えない。俺は宛もなく歩き出した。
どのくらいの距離を歩いたのだろうか。薄闇の中をひたすら歩いていると、アパートのような建物が目に入った。
4階建てのその建物は、どの窓もカーテンが閉め切っていて中の様子は確認できない。入口と思われる扉は固く閉ざされている。
すると、屋上に人影がふらりと現れた。影なので男か女かも判別出来ない。
その人影は屋上にある柵の近くまでスーッと移動すると、そのまま柵を越えて飛び降りてしまった。
僕は咄嗟に目を瞑った。だが、いつまで経っても人が地面にぶつかる衝撃音が聞こえてくることはなかった。
恐る恐る目を開けると、そこには何もなかった。それどころか、先程までそこに建っていたアパートも無くなっていたのだった。
あたしはホッと安堵のため息をついた。目の前で誰かが死んでしまうのはあまり気分のいいものでは無い。
ボクは再び歩き出した。かなり長い距離を歩いているはずなのだが、不思議と疲れはなかった。
しばらく歩くと、木々の生い茂る場所に着いた。葉が雨を防いでくれているからか、先ほどよりも雨の勢いは小さくなったように感じられた。
左手に古びた木製の立て看板が2つ並んで立っている。
『木を見て森を見ず』
『木を隠すなら森の中』
それぞれの看板には黒いペンキでそのように書かれていた。
先へ進むと、枝に何かがぶら下がっている木が幾つもある事に気づいた。
ある木には中にギッシリ砂が詰まった小さな上履き、他の木にはビリビリに破かれた大学ノート。
5段階評価中5の数字が多く記された成績表、古びたクラリネット、『死ね』と書かれた防災頭巾。
そのような物がぶら下がった木を幾つも見て、オレは何故か気分が悪くなった。心の奥底にある膿んだ傷に触れられるような、そんな不安になる感覚だ。
ワタシはこの場所から早く立ち去りたいと思い、自然と早足になっていた。
森の出口は中々見つからない。暗い森の中を長いこと歩いていると、眼前に木々が全く生えていない場所が見えてきた。
やっとこの忌々しい森から抜けられる、と思った俺だったが、その期待は裏切られた。
ここは木々に囲まれた広場で、この先にはどこにも道がない。行き止まりだ。
その広場の中心には何故か映画でしか見たことの無いような大掛かりな絞首台がある。階段は私の方を向いていた。
この辺りには出口は見つからない。行先を見失ったぼくは吸い寄せられるようにその階段を登っていた。ここからどこにも行けないオレには絞首台に上ることが最適解のような気がしたのだ。
縄のある舞台に到着した。足元には落とし戸がある。これは奥にあるレバーを引くと開く仕組みになっているのだろうか。
縄の輪はワタシの目線より少し上に吊るされている。僕は背伸びをして、その輪に自分の頭を通した。
すると、執行人も誰もいないのにレバーがひとりでに動き、俺の足元の落とし戸が開いた。
自分の全体重が首にかかり、縄が首にくい込む。これでやっと終わりに出来るのか。
不思議と恐怖はなかった。薄れていく意識に身を委ね、私は静かに目を閉じる。
雨は降り止むことなく、冷たく私の体を濡らしていた。