嘘八百日記

このブログ記事は全てフィクションです。

高校生の時に体操着を盗んだ話

これは僕が高校2年生の頃の話だ。

夏が終わり、涼やかな風に秋の訪れを感じる時期であった。

その日、僕は夕日に照らされた放課後の教室に来ていた。

明日の1限目にある日本史Bの授業中に提出する宿題をやるのに必要な資料集を学校に置いてきてしまったからだ。

自分のロッカーを空け、歴史の資料集を取り出す。その時、僕の視界の端に『松田』と書かれたロッカーの扉が映った。

松田さんはクラスで1番可愛いと言われている女子だ。でもそれを鼻にかけることもなく、僕のような目立たない男子に対しても気さくに話しかけてくれる優しい人だ。彼女とは同じ図書委員で、委員会中には時々話すことがあった。

僕は密かに彼女に思いを寄せていた。といっても、僕のような根暗で垢抜けない男子なんて相手にされるはずも無いし、好意を持っていることが他の奴らにバレたら馬鹿にされるだろうから、このことは誰にも言っていない。

ほんの出来心だった。彼女のロッカーを少し覗いてみたいと思ってしまった。

僕は彼女のロッカーに手をかけた。鍵はされてなかった。

松田さんのロッカーの中には、置いていっても問題ない国語の便覧や分厚い教科書が几帳面に並べられていた。その横には体操着の入った巾着袋が置いてある。

どくり。僕の心臓が大きく鼓動を鳴らす。今日は体育の授業があった。この袋の中には松田さんの着た体操服が入っているはずだ。

緊張で震えながら、僕は彼女の体操着へ手を伸ばした。

こんなことをしてはダメだ。自分が何をやってるのか分かってるのか。僕の理性はそう訴えかけてくるのに、僕の体は言うことを聞かない。

そしてそのまま、僕はリュックの中に松田さんの体操着を押し込めた。


幸運なことに、校舎の中では誰とも会わなかった。この時間に僕が学校にいたところを誰も目撃しなかったということになる。僕は少しだけ安心した。

僕が松田さんの体操着を盗んだことはこの世界で僕しか知らない。それなのに帰り道ですれ違う人々に「お前は悪人だ」と蔑まれているような気がして何だか落ち着かなかった。

自室に戻ると、多少は冷静に現状を見れるようになった。僕は大変なことをしでかしてしまったぞ、と松田さんの体操着袋を前に後悔をしていた。

もしも僕が盗んだことがバレてしまったら、クラス中どころか学校全体から冷たい視線を浴びることになるだろう。優しい松田さんも流石にこんなことをされれば僕を蔑むだろう。

やっぱり松田さんの体操着は返さなくては。そう思った僕は翌日の朝、早起きして誰もいないうちに松田さんのロッカーへ体操着を戻すことにした。

しかし、ことはそう上手く運ばなかった。僕はかなり早くに来たつもりだったのだが、もう教室にきている生徒が数名いたのだ。これでは元に戻せない。

どうすることも出来ないまま、僕は自分の席でじっとしていた。教室には続々と生徒が入ってくる。松田さんが体操着を盗まれたことに気づくのは時間の問題だ。

教室に松田さんが入ってきた。「おはよう」と友達に挨拶している姿はいつも通りとても明るかった。

彼女がロッカーを開けた。とても驚いている様子で、友達数人に何かを話している。恐らく体操着が無くなっていることを話しているのだろう。

「えー!?体操着が盗まれたの〜!?」
彼女の取り巻きの女子の声が教室に響き渡った。

クラス全体がざわめいた。何も無い日常の中で面白そう事件が起き、生徒たちは何事かと色めき立っているのだろう。

僕は生きた心地がしなかった。何故なら僕のカバンの中には彼女の体操着が入ったままだからだ。

「松田さんの体操着が盗まれたってマジかよ!誰がやったんだろうな」
クラスで何かと話すことの多い本田が僕に話しかけてきた。
「さ、さぁ……僕には分からないな」
不安を顔に出さないよう、僕は何も知らないフリをした。

そこで始業時間を知らせるチャイムが鳴った。担任が教壇に立って皆を席に座らせるとホームルームが始まった。僕は少しホッとした。今本田に色々聞かれたらボロを出してしまいそうだったからだ。



1限から5限までの授業をこなし、放課後となった。クラスでは午前中は松田さんの体操着の話で盛り上がっていたが、午後になってからは流石に飽きたのか、その話をする生徒は少なくなっていた。

松田さんはというと、ホームルームの後に担任に相談しに行っていたこと以外は特に目立った行動を取っていなかった。

僕はてっきりあのまま犯人探しがクラス内で行われるのかと思っていたが、高校生ともなると比較的落ち着いた生徒が多くなるからか、そのようなことは起こらなかった。松田さん自身もあまり大事にはしたくない様子であった。僕は安堵した。

自宅に戻り、カバンを床に放り投げて僕はベッドに寝そべった。

結局、松田さんの体操着を戻すことは出来なかった。盗まれたことが皆に知られてしまった以上、他の人に見られるリスクを負ってまで彼女の体操着をロッカーに戻そうとは思えなかった。松田さんには申し訳ないが、これは僕の部屋で保管させてもらおう。僕は起き上がり、リュックから松田さんの体操着袋を取り出した。

袋の端に彼女のフルネームがマジックペンで書かれているのを見て、これが彼女の私物であることを再認識させられた。そして袋をあけ、中身を取り出す。

学校指定の紺色のジャージが出てきた。広げてみると、柔軟剤と思われるフローラルの香りがふわっと広がって僕はドキドキした。

顔を近づけてみると、柔軟剤の香りの奥で汗のすえた臭いがする。

あの松田さんから、こんな汗の臭いがするんだ。

どくり。心臓から熱い血液が循環しているのを感じる。気がつくと、僕の股間はテントを張っていた。

松田さんの体操着の匂いを嗅いでいると、何だか松田さんを抱きしめているかのような気分になって興奮してくる。松田さんは今、僕の腕の中でなすがままに体を委ねているのだ。彼女は僕のものなんだ。そんな気がしてくる。

僕はそのままズボンを下ろすと、自慰を始めた。


射精をし終えると、僕はぐったりとベッドに体を預けた。体操服に付いてしまった精液をティッシュで丁寧に拭っていると、僕は最低なことをしてしまった、という罪悪感に苛まれた。

松田さんの体操着を盗んで困らせた挙句、その体操着をオカズにしてオナニーした。僕はどうしようもなく下劣で最低な人間なのだ。自分にこんな側面があるということに嫌悪感を抱かずにはいられなかった。



それから数日が経った。僕が松田さんの体操着盗みの犯人であることはまだ誰にも知られていないようで、誰も僕を責める人はいなかった。

放課後から行われていた図書委員の集まりがやっと終わったので、僕は図書室を出て昇降口に向かっていた。

「ねぇ!」
背後から誰かが肩を叩いた。振り返ってみると同じく図書委員である松田さんが立っていた。僕はかなり驚いた。
「ぼ、僕になにか用?」
「うん!ちょっとね」
彼女は含みのある笑みを浮かべ、僕を見る。距離が少し近いのでドギマギしてしまった。
「ちょっと話したいことがあるから、学校の傍の公園に寄ってかない?」
彼女の申し出ならば断る理由は無い。僕は二つ返事で了承した。

公園には人が疎らにいた。僕達は広場にあるベンチに座って話すことにした。
「……それで、話したいことって何?」
僕は 彼女の方を見やった。
「それは……体操着のこと」

彼女が『体操着』という言葉を口にした途端、僕の心臓はうるさいぐらいに鼓動を刻み出した。

「少し前に私の体操着が盗まれる事件があったでしょ? あの時の犯人って君じゃない?」

僕は頭が真っ白になった。何も言えず、僕はただ身体を震わせることしか出来なかった。

「私、見たんだよね…… 前の日の放課後、君が私のロッカーの前で何かやってるところ。廊下で通り過ぎただけだったから、あの時はまさか君が私の体操着を盗んでるとは思ってもなかった」

彼女は先程から変わらない様子で淡々と話を続けた。

「それで翌日にロッカーを確認したら私の体操着袋がなくなってた。あの時君が盗んだのはこれか〜って納得しちゃった」

彼女は笑いながらそう言った。

「あの……その……ごめんなさい……」

僕は震える声で謝った。

「あぁ!君に謝って欲しくて話したわけじゃないから。あと、このことは他の人にも言ってないから安心してね」

彼女はそう言って僕の方に向き直った。

「なんで誰にも言わなかったの……」

僕の心に浮かんだ疑問を口に出さずにはいられなかった。

「言わなかった理由?それは、君が私の体操着を盗むようなクズで最低で下衆な人間なんだって知ってるのが私だけっていうのがなんか面白かったからかな。君を庇うつもりは一切なかったよ」

誰に対しても朗らかで優しい彼女が、人をそのように悪く言っているのは初めて見た。そんな意外な一面を垣間見れた喜びと、彼女に僕の過去の過ちが全てバレてしまったことへの絶望がごちゃ混ぜになり、それは僕に倒錯した快楽を与えた。

「なにニヤけてるの?本当に気持ち悪いよね、君」

そんな僕を見た彼女は本心から蔑んでいるようだった。

「まあいいや。そういうことだからさ、分かるよね?」

「えっ?なに?」

「これは脅迫みたいなものだよ。君が私の意にそぐわない場合、このことを誰かに言うつもりだから、これからは覚悟しておいてね!」

「え、えぇーーーーーー!?」

僕の命運は1人の美少女に握られてしまった。さらば僕の日常。僕は平穏であった学園生活に思いを馳せた。


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