嘘八百日記

このブログ記事は全てフィクションです。

2022-01-01から1年間の記事一覧

閉鎖病棟入院記⑫

8月21日(日) 前回の更新からかなり時間が経過してしまった。 その間、色んな事件や出来事、治療によって入院当初の頃からかなり変化した人や、退院する人に入院する人と、人の移り変わりも沢山あった。 今回は閉鎖病棟入院記⑨で紹介した太田さん の驚くべき…

閉鎖病棟入院記⑪

7月17日(日) 万物流転。この世にある全てのものは絶え間なく変化していく運命にある、という言葉だ。 全世界に共通するこの法則は、もちろん閉鎖病棟内にも適用される。 食堂の大きな窓から見えていた紫陽花はすっかり枯れてしまった。 旬が過ぎたのだ。梅雨…

閉鎖病棟入院記⑩

7月13日(水) 今日は朝から小雨が降り、閉鎖病棟内にも外の湿度や蒸し暑さが広がっていた。 空調のお陰で外よりは快適なはずだが、半袖でもじんわり汗をかいた。僕は猫っ毛なので、湿度のせいで髪型が歪に膨らんでしまって少し恥ずかしかった。 昼食後に談話…

閉鎖病棟入院記⑨

7月9日(土) 309号室の太田さんは、僕の苦手な人だった。 30代の男性患者で、伸び放題でボサボサな髭に、何日も風呂に入っていないような嫌なテカリのある頭がなんとも清潔感に欠ける。実際、閉鎖病棟に入院してから入浴を拒否しているらしい。 そんな太田さ…

閉鎖病棟入院記⑧

7月7日(木) 「今日、小森さんが退院するそうだよ」 朝食の済んだ後にそう教えてくれたのは、入院当初からよく話をしている植田さんという女性患者だった。 お互い20代前半と歳が近く、学部は違うが同じ大学出身であるので、植田さんにはある種の親しみやすさを…

閉鎖病棟ニュース(閉鎖病棟入院記⑦)

〇洗面所で排尿、男を隔離病棟に拘禁 病棟内の共用の洗面所で昨晩、301号室の柴田勝則(52)が排尿をしたため、看護師らが男を隔離病棟に連行した。 調べによると、7月5日午後9時30分ごろ、共用の洗面所にて男が陰部を露出し、洗面所内の洗面ボウルに排尿して…

この前自殺未遂した話(閉鎖病棟入院記⑥)

7月4日(月) 閉鎖病棟に入院してから10日程経った。 そろそろ心の整理も出来たので、僕がどういった経緯で入院することになったのかを書いていこうと思う。 自殺を図る数日前から、朝目が覚めても起き上がれず、寝たきり状態になっていた。思考力や判断力が鈍…

閉鎖病棟入院記⑤

7月2日(土) 今日の朝。 50代男性患者の柴田さんはまた、看護師に叱られていた。 彼は食事中に汁椀の蓋をベロベロ舐め回したり、お茶をコップから食べ終わった茶碗に移し、汚い音を立てて飲んだりして毎度のように看護師に怒られているので、患者の中でもかな…

閉鎖病棟入院記④

7月1日(金) 昼食を食べ終えた後の自由時間。 僕はしばらく自室で作業療法室から借りた本を読んでいた。 貧しく孤独な少年が親友と一緒に、夜空を走る汽車に乗って旅をする話だ。 夜空の世界の情感溢れる美しさと儚さ、道中で出会う愉快な旅人たちと、彼らの…

閉鎖病棟入院記③

6月30日(木) 6:30に起床。 顔を洗い、朝食を済ませると僕は決まってすることがある。 それは、談話コーナーに置いてある朝刊を読むことだ。 いい意味でも悪い意味でも刺激がなく、穏やかに時が過ぎ去っていく——この閉鎖病棟の中にいると、外には無数の人がい…

閉鎖病棟入院記②

6月29日(水) 閉鎖病棟では、精神疾患を持った患者が療養している。 基本的にはどの患者も大人しく、穏やかなのだが、中には少し変わった行動をする患者もいる。 50代女性患者の長谷川さんは、歌が大好きなのか、病棟内を散歩しながらよく通るソプラノで歌を…

閉鎖病棟入院記①

〇まえがき この日記は、数日前から精神病院の閉鎖病棟に入院している私が、日付感覚を忘れないように書いていくものだ。スマホが使えるようになったのが5日目だったので、5日目の日記から始まる。 なお、嘘八百日記の趣旨に沿い、この日記はいくつかフェイ…

想像の翼を羽ばたかせて

今日の朝、少し嫌なことがあった。 大学に登校する道の途中、人が2人並んでやっと通れるほどの細い歩道があった。 僕はいつものようにそこを歩いていたところ、向こう側から男子高校生3人が歩いてきた。完全に横並びというよりは、 端にいる1人が他の2人の少…

遺書

私はとっても幸せな人間でした。 周りの人にも家庭環境にも恵まれています。 世界中で1番幸せな人間です。 ある小説では、『悲しみの限りを通り過ぎて、不思議な薄明りの気持、あれが幸福感というもの』と言っていました。 私は今、同じ気持ちです。 とても…