嘘八百日記

このブログ記事は全てフィクションです。

それでは、よい週末をお過ごしください。

「……それにしても、卒業式終わりに公園のベンチでお菓子を食べるって……小学生じゃあるまいし」

「えぇ~? わかってないな~! 桜を見ながら公園のベンチで食べるってのが最高にエモいんじゃん!」

「お前、ことあるごとにすぐエモいって言うよな。もっとボキャブラリーを増やせよ」

「あたしはタクミと違って頭良くないから無理! 」

「はいはい。でも、もう最後なのに俺なんかとこんなところにいていいのか?ハルはクラスに沢山友達いただろ」

「うーん、でも、やっぱ最後はタクミと一緒にいたいなって」

「何だよ、それ。反応に困るんだが」

「……もう。これだからタクミはダメなんだよ」

「何がダメなんだよ」

「……何でもない!こっちの話!」

「……そ、そうか」

「……それにしても、もう3月だけど、まだちょっと寒いね!」

「それはお前のスカートが短すぎるからだろ。もう少し健全な長さにしろ」

「別に短すぎじゃないし!これが可愛いんじゃん! …………でも、このベンチ、金属で出来てるから太ももが直に冷えるわ~」

「……だから、反応に困ることを言うんじゃない」

「え、もしかしてタクミ、ちょっと恥ずかしがってる?今、あたしの太ももに目線向けてたよね?」

「はぁ?そんな訳ないだろ!ハルとは小学校からの付き合いだし、今更異性として見れないな」

「…………」

「何だよ、急に黙りこくって」

「……っ……、ぅ……」

「え?」

「ぐすっ……ぇぐっ……どうして、どうしてっ、そんなひどいこというのっ……ぅぁ!」

「……えっ、えぇっ?急に泣くなよ!なんなんだよ!」

「タクミっ……、あたしのこと、女の子として見てないってことだよねっ……」

「いや、まあ、そういうことだけど……」

「だからだよっ!だからぁっ、ぅえ、それが辛くてっ……、ぐすっ……」

「…………ああっ、もう!わかったよ!わかった。俺はハルのこと、ちゃんと女の子として見てます!だからもう泣き止めって!」

「…………ほんとに?」

「ああ、本当だ!……これでいいか?」

「…………ぷっ」

「…………ん?」

「……くくっ、……くふふっ」

「……今度はなんだよ」

「…………ははっ、あは、あはは!!タクミ、引っかかった~!」

「……は?」

「今のは嘘泣きでした!タクミ、本気で焦ってたね~!」

「あ、あのなぁ!!お前、人の気持ちを何だと思ってんだ!!」

「タクミこそ、あたしに異性として見てないなんて言って、あたしの気持ちを考えてなかったじゃん!」

「それは確かに俺が悪かったが……それにしても悪質だぞ!次からは引っかからないからな!」

「はいはい。…………でもさ、次、があれば、今日が最後じゃなければよかったのに、ってやっぱり思うな。……またタクミの焦った顔見たいしね」

「理由が不純だな…… だが、今更どうこうしても、今日が"最後"であるのは変わらないぞ」

「……まあ、そうだね。こんなに何もせずにのんびりしてるのって、あたしたちぐらいかも。 あ、ほら。あそこでまた車が事故った」

「うわ。 4台まとめてとは、これはまた酷い事故だな」

「……みんな、そんなに急いでどこに行きたいんだろうね~」

「さあな。どこかにいけばもしかしたら助かるかも、と藁にも縋る思いなんじゃないか?」

「でもさ、多分無理だよね。なさ?とじゃくさ?だかが、地球全体が滅びるぐらいの隕石が落ちてくるって朝のニュースで言ってたし」

NASAJAXAな。かつて恐竜を絶滅させた小惑星級の隕石が落ちてきて、その隕石は現在の技術ではどうすることもできない、とも発表していたな」

「じゃあさ、もしかしたらさ。かつて地球で暮らしてた恐竜たちも、今あたしたちが見てる空と同じ空を見て、絶望してたのかな」

「……ハルにしては随分詩的なことを言うな。そう考えると、隕石が邪魔してちゃんと見えない青空にも、少しは好感が持てるな」

「タクミ、あたしのことバカだと思ってるでしょ!も~!」

「学校の成績と日頃の言動から総合的に判断すると、バカだな」

「ひっど~~! クラスの女子たちに今のをチクってタクミの人気を下げてやりたい!!」

「人気もなにも、俺は元々そんなに人気はないだろ」

「……自覚なし、か~! だからタクミはダメなんだよ」

「お前、さっきも言ってたけど、俺がダメって何がだよ」

「ど・ん・か・んってこと!タクミは頭もいいし、背もそこそこ高いし、顔もそんなに悪くないし、大学だってかなりハイレベルな所に受かってたし、クラスの女子たちの中では結構人気だったんだよ?」

「……はあ、そうなのか」

「あぁ!ちょっとニヤけてる!無関心なフリしてほんとは嬉しいんだ! 」

「そりゃあ、まあ、な?」

「……む~、何か複雑だな~」

「何だよ、複雑って」

「ん~、わかんないけど、なんかヤな感じ!」

「ハルは本当、昔から自分の気持ちを言語化するのがへたくそだな」

「うっさい!…………でも、タクミは第一志望の大学に受かってたけど、入学できずに終わっちゃうのは悲しくないの?」

「そうだな、やっぱ悲しいよ。最初はそれこそ絶望してた。あんなに必死になって勉強したのが全くの無駄になってしまうんだからな。だが、最後の日が近づくにつれて、諦めというか、達観というか、いつの間にかこの、どうしようもない現実を受け入れてしまったな」

「そっか…… 」

「ハルこそどうなんだ? 確か、保育士の専門学校に入学する予定だったよな」

「そうだね…… 保育士になるっていう、小さい頃からの夢が叶わないまま、最後の日を迎えるのは悲しいよ。でもね、あたしには、もっと、もぉっと、悲しいことがあるよ」

「……それはなんだ?」

「それはね、もうタクミとこうやってダベったり、遊んだりできないこと。それと……」

「……なんだよ」

「…………もうそろそろ最後がきちゃうから、ほんとの気持ちを隠すのはやめる!あたし、あたしね、ずっと、それこそ小学校の頃から………… タクミのこと、すきだったんだよ」

「えっ、ああ、そうか……」

「……そこ! ああ、そうか、じゃないでしょ!」

「いや、なんというか、なんて言えばいいかわからなくてな。すまない……」

「タクミは本当、昔から女の子の気持ちを理解するのがへたくそだね 」

「なんだ、さっきの仕返しか」

「そうだよ!! というか、あたしが本音を伝えたんだから、タクミも返事をしてよ!」

「ああ、そうだな…… その、なんというか、ハルにそう言ってもらえて、俺は今、素直に嬉しいと思ってる。 だからさ、まあ、俺もハルのこと……そう思ってるってことだな」

「……そう思ってるって、どう思ってるの?」

「……そこまで俺に言わせるのか」

「あたしはめっちゃ恥ずかしかったけど、ちゃんと言ったよ!だから、タクミもちゃんと言って!」

「わかった、わかったよ。さっきは照れ隠しでハルを異性として見てないって言ってしまったが、俺もハルのこと、結構前から好きだったんだ」

「…………ほんとに?」

「本当だ。……まさか、この告白も嘘ではないよな」

「…………自分の本当に気持ちに、嘘なんてつけないよ」

「そ、そうか……」

「あれっ、タクミ、顔すっごく赤くなってる~!」

「……それはお前だってそうだぞ」

「えっ!? うそっ! ……あっ、確かにほっぺが熱い」

「恥ずかしいのは、お互い様ってことだな」

「えへへ、うん、そうだね…… 」

「……今のハル、なんか女の子らしいというか、いじらしくて可愛かったな」

「なっ、えっ、ちょっ!……急にそんなこと言わないでよ!心の準備がまだできてないし!」

「ん? 思ったことを素直に言っただけだが、それもダメなのか。やっぱり女心はよくわからんな」

「もう…… 」

「それにしても、俺たちは両想いだったって、最後が来る前に知れたのは良かったんだろうか。それとも、もっと前から知っていたら……」

「それを言ってもしょうがないよ。あたし、今日で地球が終わるのを、朝に空を見上げて実感したからこそ、勇気をだしてタクミに気持ちを伝えられたと思うんだ」

「そうか、そうかもしれんな」

「……これが吊り橋効果ならぬ、隕石効果ってね!」

「使い方が若干違う気がするが…… まあいいか」

「それにしてもさ、あたしたちの卒業式とあたしの告白が終わるまでは落ちないでいてくれるなんて、隕石も粋なことするんだね~」

「これで軌道がそれて地球にぶつからないでくれれば、もっと粋だがな」

「……たしかに、そうだね」

「…………」

「ま、落ち込んでもしょうがないし、お菓子でも食べますか!」

「……ああ、そうだな」

「ええっと…… あたしのはこれ!」

「なんだ、うまい棒か。どうせならもっと高いお菓子でも買えばよかったのに」

「価値は値段だけでは決まらないし!あたしはうまい棒一筋18年ですから」

「はいはい。俺の分も袋から出してくれ」

「うん!はいこれ!って、栗ようかんか!やっぱ高校生なのに渋いチョイスで、いつ見てもウケるわ」

「食う菓子に年齢は関係ないだろ。俺はコンビニのレジ前に置いてある小さめの栗ようかんが昔から好きなのは知ってるだろ?」

「うん。知ってる。でもやっぱり面白い!」

「俺は最後の晩餐が栗ようかんでも全く問題ないな」

「あたしも、うまい棒で問題ないよ」

「あぁ…… 隕石、さっきより近づいてきてるな」

「……そうだね。道路もさっきから車が何台も事故るから燃えちゃってるし。周りのみんなキャーキャー叫んで怖がってるね」

「これぞ非日常って感じだな」

「…………もう、最後なんだね」

「……隕石が落ちる前に、俺は栗ようかんを食べるぞ」

「あ、あたしも!……もぐもぐ……やっぱりおいしい!」

「んぐ。やはりうまいな……」

「………ねぇ、」

「ん?なんだ」

「最後が来る前にさ、もう一回だけ、もう一回だけでいいから、すきって言ってくれないかな?」

「む…… 中々に恥ずかしい注文をするな」

「ダメ、かな?」

「いや、ダメじゃない。…………お、俺は、ハルが…………好きだ。」

「うん、うん、ありがとう…… あたしも、タクミがすき……」

「…………やはり恥ずかしいな。でも、ハルに好きと言うのも、言われるのも悪い気分じゃない」

「……タクミがそう言ってくれて、あたし嬉しいよ。 じゃあさ、最後にもう一個だけ、お願いできないかな」

「……何をだ?」

「その……さ、キス、とかできないかな?」

「んなっ!? それはかなりの難題だな……」

「でも、あたし、すきな人とキスができないまま最後を迎えるのは…………いや、だな」

「だが、俺はそんなのしたことないぞ……」

「あたしだって、したことないよ?」

「そ、そうか………… では、期待に添えないかもしれないが、やってみるか」

「う、うんっ……」

「……恥ずかしいから、目、閉じろ」

「うん」

「じゃあ、今からするからな」

「……うん」

「…………………」

「………………………………」

「…………これでいいか?」

「……うん。なんか今、すごい心臓がバクバクしてる」

「俺もだ」

「初めてのキスは甘酸っぱいレモン味ってよく言うけど、タクミのキスは栗ようかんの味だった」

「ハルのはうまい棒のめんたいこ味だったぞ」

「うわっ、それなんか恥ずかしいかも…… 甘いお菓子を食べておけばよかった」

「ふふ、まあ、めんたいこ味だって悪くなかったぞ」

「ほんとに? 」

「多分好きな人とのキスだったから、かな」

「んもう! なんかタクミ、さっきからだいぶ言うようになったじゃん」

「まあ、それも隕石効果のおかげ、かな」

「そっか…………  あ、もう」

「かなり近いな。もう本当にこれが最後なんだな」

「……………………」

「ん? どうした?」

「あたし、あたしね……」

「うん」

「…………あたしっ! やっぱり、これで最後なんていや!!」

「…………」

「もっとタクミといろんな所にデートしたり、いろんなお話したり…… さっきみたいなキスだって、もっとしたかった!!」

「ハル…………」

「あたし、今、好きな人と心が通じ合う幸せを知っちゃったから、この幸せを失いたくなくなっちゃった……  さっきまでは、もう世界が終わっちゃってもいいかな、って思いかけていたのに…… なんでよ、なんでよ! 」

「…………………」

「なんで今日で世界は終わっちゃうの? なんで明日が来ないの? 終わるのは今日じゃなくたってよかったじゃん!もう少し、もう少しだけ先延ばしにしてくれてもよかったじゃん!」

「ハル」

「なんでよ!なんでっ……………… ひゃっ!」

「…………もうすぐ終わるこの世界を変えることは、俺にはできない。でも、世界が終わるその時まで、ハルの傍にいることなら俺にもできる」

「…………も、もうっ、急に抱きしめるなんてっ……! しかも、なんかキザったらしいことまで言ってたし!」

「う、うるさい! お前を落ち着けさせるためにやっただけだ!それにな、男っていうのはとにかくカッコつけたい生き物なんだよ!」

「……ふふっ。でも、そう言ってくれて、抱きしめてくれて、すっごく嬉しいよ。 …………あぁ~あ!さっきタクミが言ってた通り、もっと早くに告白してれば、こんな風にタクミに沢山抱きしめてもらうこともできたんだなぁ…… 」

「……俺は、今日が最後じゃなければハルを抱きしめることはおろか、ハルに触れることすらできなかったと思う」

「……そっか。隕石なんてだいっきらいだったけど、それ聞いてちょっと好きになったかも」

「なんだよ、それ」

「……すきな人に抱きしめられるのって、こんなにあったかくて、こんなにも幸せな気持ちになれるんだね」

「……そうだな、俺も同じだ」

「……最後が来るまで、あたしを離さないでね」

「ああ、わかってるよ」

「タクミ」

「なんだ?」

「今までありがとうね、さよなら」

「さよなら、はあまり好みじゃない。またね、がいいだろう」

「そっか、それもそうだね」

「ハル、また会おう」

「うん。またね」

「ああ」

「タクミ、もしもあたしたちが生まれ変わったらさ、そしたら、またあたしのこと、すきになっ