嘘八百日記

このブログ記事は全てフィクションです。

それでは、よい週末をお過ごしください。

「……それにしても、卒業式終わりに公園のベンチでお菓子を食べるって……小学生じゃあるまいし」 「えぇ~? わかってないな~! 桜を見ながら公園のベンチで食べるってのが最高にエモいんじゃん!」 「お前、ことあるごとにすぐエモいって言うよな。もっとボ…

閉鎖病棟入院記⑫

8月21日(日) 前回の更新からかなり時間が経過してしまった。 その間、色んな事件や出来事、治療によって入院当初の頃からかなり変化した人や、退院する人に入院する人と、人の移り変わりも沢山あった。 今回は閉鎖病棟入院記⑨で紹介した太田さん の驚くべき…

閉鎖病棟入院記⑪

7月17日(日) 万物流転。この世にある全てのものは絶え間なく変化していく運命にある、という言葉だ。 全世界に共通するこの法則は、もちろん閉鎖病棟内にも適用される。 食堂の大きな窓から見えていた紫陽花はすっかり枯れてしまった。 旬が過ぎたのだ。梅雨…

閉鎖病棟入院記⑩

7月13日(水) 今日は朝から小雨が降り、閉鎖病棟内にも外の湿度や蒸し暑さが広がっていた。 空調のお陰で外よりは快適なはずだが、半袖でもじんわり汗をかいた。僕は猫っ毛なので、湿度のせいで髪型が歪に膨らんでしまって少し恥ずかしかった。 昼食後に談話…

閉鎖病棟入院記⑨

7月9日(土) 309号室の太田さんは、僕の苦手な人だった。 30代の男性患者で、伸び放題でボサボサな髭に、何日も風呂に入っていないような嫌なテカリのある頭がなんとも清潔感に欠ける。実際、閉鎖病棟に入院してから入浴を拒否しているらしい。 そんな太田さ…

閉鎖病棟入院記⑧

7月7日(木) 「今日、小森さんが退院するそうだよ」 朝食の済んだ後にそう教えてくれたのは、入院当初からよく話をしている植田さんという女性患者だった。 お互い20代前半と歳が近く、学部は違うが同じ大学出身であるので、植田さんにはある種の親しみやすさを…

閉鎖病棟ニュース(閉鎖病棟入院記⑦)

〇洗面所で排尿、男を隔離病棟に拘禁 病棟内の共用の洗面所で昨晩、301号室の柴田勝則(52)が排尿をしたため、看護師らが男を隔離病棟に連行した。 調べによると、7月5日午後9時30分ごろ、共用の洗面所にて男が陰部を露出し、洗面所内の洗面ボウルに排尿して…

この前自殺未遂した話(閉鎖病棟入院記⑥)

7月4日(月) 閉鎖病棟に入院してから10日程経った。 そろそろ心の整理も出来たので、僕がどういった経緯で入院することになったのかを書いていこうと思う。 自殺を図る数日前から、朝目が覚めても起き上がれず、寝たきり状態になっていた。思考力や判断力が鈍…

閉鎖病棟入院記⑤

7月2日(土) 今日の朝。 50代男性患者の柴田さんはまた、看護師に叱られていた。 彼は食事中に汁椀の蓋をベロベロ舐め回したり、お茶をコップから食べ終わった茶碗に移し、汚い音を立てて飲んだりして毎度のように看護師に怒られているので、患者の中でもかな…

閉鎖病棟入院記④

7月1日(金) 昼食を食べ終えた後の自由時間。 僕はしばらく自室で作業療法室から借りた本を読んでいた。 貧しく孤独な少年が親友と一緒に、夜空を走る汽車に乗って旅をする話だ。 夜空の世界の情感溢れる美しさと儚さ、道中で出会う愉快な旅人たちと、彼らの…

閉鎖病棟入院記③

6月30日(木) 6:30に起床。 顔を洗い、朝食を済ませると僕は決まってすることがある。 それは、談話コーナーに置いてある朝刊を読むことだ。 いい意味でも悪い意味でも刺激がなく、穏やかに時が過ぎ去っていく——この閉鎖病棟の中にいると、外には無数の人がい…

閉鎖病棟入院記②

6月29日(水) 閉鎖病棟では、精神疾患を持った患者が療養している。 基本的にはどの患者も大人しく、穏やかなのだが、中には少し変わった行動をする患者もいる。 50代女性患者の長谷川さんは、歌が大好きなのか、病棟内を散歩しながらよく通るソプラノで歌を…

閉鎖病棟入院記①

〇まえがき この日記は、数日前から精神病院の閉鎖病棟に入院している私が、日付感覚を忘れないように書いていくものだ。スマホが使えるようになったのが5日目だったので、5日目の日記から始まる。 なお、嘘八百日記の趣旨に沿い、この日記はいくつかフェイ…

想像の翼を羽ばたかせて

今日の朝、少し嫌なことがあった。 大学に登校する道の途中、人が2人並んでやっと通れるほどの細い歩道があった。 僕はいつものようにそこを歩いていたところ、向こう側から男子高校生3人が歩いてきた。完全に横並びというよりは、 端にいる1人が他の2人の少…

遺書

私はとっても幸せな人間でした。 周りの人にも家庭環境にも恵まれています。 世界中で1番幸せな人間です。 ある小説では、『悲しみの限りを通り過ぎて、不思議な薄明りの気持、あれが幸福感というもの』と言っていました。 私は今、同じ気持ちです。 とても…

異常独身男性の憂鬱⑦

「ん、……ぁっ」 「ここがいいんですね……? 」 「あっ、は、ぁ…… そこ、きもちいい、ですっ…… 」 村雨さんの嬌声がリビングに響く。部屋は間接照明のみがつけられており、暖色の柔らかな光が彼女の肢体を艶めかしく照らしていた。 「じゃあ、ここなんてどうで…

心の贅肉のポワレ 希死念慮と劣等感のキャベツ包み 隙自語を添えて

これは遺書のようなものである。 いつ自分が死んでしまっても大丈夫なように、文章の形で今の自分の気持ちを残しておこうと思う。 自分が何も残さずに死んだら、私という存在がそもそもなかったかのように忘れられてしまいそうで、それがすごく怖かった。自…

異常独身男性の憂鬱⑥

デパートを出てから、俺たちは一息つくために駅から出てすぐの所にある喫茶店に来ていた。 チェーン店なのだが、コーヒーの豆にこだわっているらしく、価格が高めであるからか客の年齢層が高く、繁華街の中であるというのに落ち着いた雰囲気であった。 村雨…

異常独身男性の憂鬱⑤

村雨さんの服を買い終えた俺たちは店を出た。 「私の買い物にお付き合いいただきありがとうございます」 「いえ、 俺が役に立ってたのかどうかって感じでしたけど…… 」 俺がしたことといえば、新しい服に着替えた村雨さんを眺めて呆けることぐらいだったのだ…

最近、脳内で植物を育てています

私は、脳内で植物を育てている。その植物は、神経伝達物質であるセロトニンを養分として吸収し、成長していく。植物はゆっくりと脳を蝕み、いつしかその根が脳髄全体へと到達すると、思考や行動をも支配してしまう。自分の意思で体を上手く動かすことが出来…

異常独身男性の憂欝④

その日の深夜。 俺は自室で寝ていたのだが、尿意を催してしまったので、眠い目をこすりながら手洗いに向かった。 俺の部屋から廊下を挟んで向かい側に村雨さんの部屋がある。なので、トイレに行く途中に彼女の部屋の前を通るのだ。 この扉の向こうで村雨さん…

異常独身男性の憂鬱③

今日は出社日だった。仕事を終え、会社を出る頃には辺りはすっかり暗くなり、街灯が寒々しく道を照らしていた。 身を切るような寒さに耐え、何とか帰宅した。冬の日の夜に外を出歩くのは、寒がりな俺にとっては命をすり減らしているようなものだ。 かつて住…

異常独身男性の憂鬱②

「こんにちは。私、異常独身男性監視委員会の村雨と申します。本日はどうぞよろしくお願いしますね」村雨と名乗るその女性は柔和な笑みを浮かべている。その言葉さえ聞かなければ、素直に可愛らしいなと思えるのだが、今はそれどころではなかった。「異常独…

異常独身男性の憂鬱①

俺は自分が異常独身男性という自覚がある。彼女いない歴=年齢、特定の友人もおらず、女性に相手されたことも無い。明確な定義がある訳では無いが、その自覚がある以上、俺は異常独身男性なのだ。今回はそんな俺が巻き込まれた、ある事件について書こうと思…

猫カフェに行ったら人類が滅亡していた

私は先日、猫カフェに行ってきた。今回はその時の体験をもとに記事を書こうと思う。 その日、私は東京都M市のとある猫カフェに来ていた。 私は大の猫好きなのだが、現在住んでいるのは賃貸なので猫は飼えない環境にあった。 猫カフェは気軽に猫とふれあう時…

魔界コンセプトのメイド喫茶に行ったら、本当にモンスターに出会えた

先日、僕はとあるメイド喫茶に行った。今回はその時の体験を元に記事を書こうと思う。 その日は平日だったのだが、有休を消化するために仕事を休んだので1日暇だった。 平日の昼間に出歩くなんて学生の時以来だろうか。僕はある種の開放感を覚えながら、秋葉…

ふるさと納税したら呪いの箱が届いた

今週のお題「ふるさと納税」 私は最近「ふるさと納税」を始めた。ふるさと納税というのは、応援したい好きな自治体を選んで寄付をする仕組みのことだ。 寄付をすると、その自治体の特産物が寄付の返礼品としてもらえ、寄付金が税金から控除される。これはお…

サイゼリヤに行ったら間違い探しの間違いの世界に入った

私はサイゼリヤが好きだ。比較的値段は安いのに、味はそこそこ良くて満腹になれるからだ。今日も私は仕事終わりに、夕食を食べようとサイゼリヤに行った。席につき、メニューは見ずに注文用紙にメニュー番号を書き込む。店に来る前から、食べるものはすでに…

ペットの名前は『希死念慮』

最近、僕はペットを飼い始めた。いや、飼わざるを得なくなったと言った方が正しいかもしれない。ある日、僕が学校から帰宅すると、ソレはいつの間にか僕の部屋に入り込んでいた。どこにそんな隙間があったのだろうか。僕は何度もソレを追い出そうとしたのだ…

シュルレアリスム

目が覚めると、私は薄暗い場所に横たわっていた。ここはどこだろう。私はこの場所に全く見覚えがなかった。ポツリ。いくつもの水滴が私の頬を叩いている。ここではずっと雨が降っているみたいだ。私は重い体を何とか起こして立ち上がった。周りを見渡すが、…