嘘八百日記

このブログ記事は全てフィクションです。

ふるさと納税したら呪いの箱が届いた

今週のお題ふるさと納税」 

  私は最近「ふるさと納税」を始めた。ふるさと納税というのは、応援したい好きな自治体を選んで寄付をする仕組みのことだ。

 寄付をすると、その自治体の特産物が寄付の返礼品としてもらえ、寄付金が税金から控除される。これはお得な制度だと思った私はそれから、様々な地域に寄付をした。

 山梨県の桃、石川県の加能ガニ、神奈川県の寄せ木細工など、私はこれまで様々な返礼品をもらってきた。

  その日、私はまだ寄付をしていない他の自治体を探すべく、ふるさと納税サイトを閲覧していた。

  いろいろな返礼品が並んでいる中で、私は気になるものが一つ見つかった。

 それは「伊蛾未彫 朱色漆塗文箱」である。朱色の漆塗りがされたその箱には、蝶や椿の花の繊細な彫刻がされている。美しい曲線で描かれたそれは見事なものであった。

 私はこの返礼品の写真を見て、思わず一目惚れしてしまった。どうやら島根県にある寒村で作られている伝統工芸品らしい。衝動的にカートに入れ、迷わず寄付手続きを済ませた。

 それから一か月。寄付した自治体から返礼品が届いた。梱包を解くと、あのサイトに載っていた写真の通りの物が入っていた。いや、写真より実物の方が何倍も素敵だった。

 この伊蛾未彫の艶やかな漆塗りの上品さは実際に見てみないと分からないものなのだろう。寄付金額は安いとは言えない値段ではあったが、私は大変満足していた。

 この時までは。

 この箱はA4サイズの書類なら入れられそうだ。この中に何を入れようかと考えながら蓋を開けた。

中には古びた一枚の封筒と赤黒いシミの付いた布、髪の毛と思わしき毛の束が入っていた。

驚いた私は持っている蓋を床に落としてしまいそうになった。

一体これは何なんだ。そもそも、どうしてこんなものが入っているのだ。頭には疑問符がいくつも浮かぶ。

 とりあえず、封筒に何が入っているのかを確認してみた。

封筒から出てきたものは一枚の写真であった。色褪せたそれには4人の女性が写っている。旅行中の一枚のようで、どこかの海を背景に4人とも楽しそうにピースしていた。

フィルムカメラで撮られたものなのか、右下に日付が記されている。どうやらこの写真は今から20年前に撮影されたらしい。

そんなに怖いものでなくてよかった。ホッと安堵のため息をついた。

何の気もなしに写真を裏返してみた。

裏側には赤いボールペンで書かれた『死ね』という文字が隙間なくびっしりと書き連ねてあった。

私はゾッとしたので、急いで封筒に写真をしまった。

 その時に、封筒の中に写真の他に何かが入っているのに気が付いた。

それは書道に使う半紙を何回も折りたたんだものだった。嫌な予感はしたが、好奇心からその紙を広げていった。

紙には四人の名前が書かれている。見た感じ、4つとも女性の名前だと思う。筆で書かれたその文字は整っているのだが、ところどころ掠れている。文字は赤茶色であった。

まさか、これは血液で書かれているのではないか。一度そう考えてしまうと、なかなかその考えを捨てられなくなる。気味が悪くなった私はその紙を箱に戻した。

恨み事の書かれた写真に、血文字の名前、髪の毛の束と不気味なシミの付いた布。

何となくだが、この箱に入っているものの正体がわかってきた気がする。

恐らく、これらは誰かが誰かを呪うために作ったものなのだろう。血には強い呪力を秘めているとして、しばしば呪術に用いられがちだし、誰かを呪う時にはその相手の一部である髪の毛を使う、なんてことを聞いたことがある。

だからこれは誰かの憎悪の結晶だ。そんなものを私は近くに置いておきたくない。

私はこのおどろおどろしい箱を返すためと、こんなものを送ってきた自治体にクレームを入れるべく、注文確認メールに書かれていた自治体の担当者の電話番号にかけた。

しかし、いくらかけても応答はなかった。対応してくれる時間帯や曜日も確認したし、電話番号に間違いはないはずなのだが。

私は電話するのを諦め、ふるさと納税のサイトにあった、その自治体のページを見てみることにした。

だが、奇妙なことにその自治体はおろか、私が頼んだ返礼品のページにもアクセスすることが出来なかった。

おかしい。一か月前に私が見ていた時には絶対にそのページはあったのに。いくら探しても見つけることはできなかった。

それから、私はふとした思いつきで半紙に書かれていた四人の名前をGoogle検索してみた。

ヒットしたのは、ある事故のニュース記事であった。

『██日午前7時すぎ、██市██の県道で、乗用車が前を走る軽乗用車に追突しました。 はずみで軽乗用車は反対車線にはみ出し、対向車と正面衝突しました。この事故で軽乗用車を運転していた██市の████さん(32)、乗っていた████さん(31)、████さん(30)、████さん(32)の4名が死亡し、ほかの車のドライバー2人も重軽傷を負いました。

全身に寒気を感じながら、私はそっとブラウザを閉じた。