嘘八百日記

このブログ記事は全てフィクションです。

長門有希に童貞を捧げた話

僕はあと数ヶ月で魔法使いになってしまう。

ここで言う魔法使いというのは魔術に造詣の深いファンタジーの存在という訳では無い。そんな綺麗なものじゃあない。
女性と肉体関係を1度も持たずに30歳を迎えた男性を日本ではそう呼ぶのだ。20代前半の頃はまさか30代を目前に控えていても自分が童貞を捨てられずにいるとは思ってもいなかった。

そうして焦った僕はネットで風俗店を調べ始めた。調査してから、本番が出来る店は基本的にソープだけなのだと知った。それだけ風俗店に関する知識は無いと言ってもいい状態であった。

様々な店がある中で、僕はコスプレソープというものに興味を持った。
どうやらコスプレソープでは持参した衣装を女の子が着てくれて、そのまま本番が出来るそうなのだ。

僕は胸が高なった。以前からコスプレAVは好んで見ている。普段なら絶対に着ないような服を来た女性が性交渉している様にはえも言われぬ淫靡さがあり、それが堪らなくそそるのだ。

初体験はコスプレしたソープ嬢に捧げることに決めた僕は早速行きたい店を決めた。値段は6万程で、風俗の中では高級な部類に入る店を選んだ。指名する嬢はその店のwebサイトに載っていた写真を見て、小柄であどけない可愛さのある子を選んだ。
また、Amazonで売っているコスプレ衣装を探して総額3万円ほどかけて取り揃えた。僕が学生時代からずっと好きな長門有希のものだった。

当日となった。僕は予約の10分前に店に着いた。待合室には幅広い年齢層の男性たち数人がじっと座って待っていた。その姿は次なる戦いに備えて体力を温存しているかのようであった。ソファーは全て同じ向きで置かれており、他の客と顔を合わせることがない部分に店側の配慮を感じた。

受付はそのソファーに座ったまま行われた。そこで持参したコスプレ衣装をボーイに渡し、嬢が着替え終わるまでしばらく待つよう指示された。
その時にボーイが、「お客様が指名された嬢なのですが……少々変わった性格をしておりまして……それでも宜しいでしょうか」と申し訳なさそうに言ってきた。
僕はあまり深くは考えずに、「大丈夫ですよ」と了承したが、それが全ての間違いだったのだと今では思っている。

そしていよいよ嬢との対面。僕は緊張で少し手が震えていた。彼女は待合室を出て右にある階段に佇んでいた。

彼女は長門有希だった。小柄な体躯に幼い顔立ち、襟が特徴的なセーラー服にカーディガン、この為だけに買った衣装たちを完璧に着こなす彼女を見て、僕は少し興奮してしまった。

「すごい……」
思わず声に出してしまった。
「私はクライアントの要望通りに形質を変えることができる」

彼女の台詞はあまりに突拍子もなくて、何を言っているのか一瞬理解が出来なかった。でも長門は確かこんなキャラだったし、ひょっとするとプレイ前から役に入り込む演技派な嬢なのかもしれない。そう思うことにした。

彼女が僕の手を取ってプレイルームまで案内してくれた。彼女の手はあまりにも冷え冷えとしていて生気がないように感じた。

部屋は落ち着いた雰囲気で、ベッドのある部屋のすぐ横に風呂が付いているのが印象的だった。
部屋に来たはいいが、何をすればいいのか分からない僕はただ突っ立っていた。それを見た彼女は何も言わずにベッドを指で示した。ここに座れということだろうか。僕はゆっくりと腰を下ろして彼女の方を見た。

「私が服を脱がせる。あなたは何もしなくていい」
彼女が淡々とそう告げると、僕の服に手を掛け、なにかを早口で唱えた。

すると、一瞬のうちに僕は全裸になっていた。

現状に全く理解が追いつかず、僕は戸惑いながら周りを見た。先程まで僕の着ていた衣類は全て綺麗に畳まれており、すぐ側に置いてあった。
「あ、あの、僕に何をしたんですか?」
吃りながらも僕は彼女に聞いた。
「あなたの服の座標を少しずらしただけ。大したことではない」
「へ?あぁ……そうなんですね」
僕は彼女の言っていることを全く理解してなかったが、反射でそう答えてしまった。

無愛想な態度や奇妙な言動といい、この人は風変わりな性格の持ち主なのかもしれない。だが、それで片付けられる問題なのだろうか。実際、一瞬で服を脱がされるという不可解なことも起こっている。だが、6万は既に払ってしまっているし、取り敢えずはこのまま続けた方が良いだろう。僕はそう思い、プレイを中断せず続けることにした。

僕と彼女は軽くキスをした。彼女は言動こそ無機質で人間味が感じれなかったが、唇は生きた人間のそれでしっとりと柔らかかった。下腹部に身体中の血液が集まってくるのを感じていた。

「乳首舐めに移行する。そこに横になって」
彼女の言う通りにベッドの上に横になった。そして僕の上に乗り、彼女が僕の乳首に顔を近づける。初めての体験で顔が熱くなった。

彼女の舌が僕の乳首を転がし始めたのだろう。粘性の刺激に僕は思わず目を瞑り、間の抜けた声をあげてしまう。一体どんな様子なのだろうかと目を開けてみるが、彼女は僕の体から顔を離しており、乳首を舐めていなかった。

おかしい。僕は彼女に乳首を舐められていると思ったが舐められていなかった。……何を言っているのかわからねーと思うが、僕も何をされたのかわからなかった。それなのに相変わらず乳首は刺激され続けており、未知の快感が僕の体を駆け巡っている。

怖い。純粋な恐怖が僕の心を支配した。この女は一体何者なのだ。
「僕の体に何をしたんです!?あんた一体なんなんだ!」
「この銀河を統括する、情報統合思念体によって創られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース、それが私」

数分前まで、この嬢は長門有希のキャラを一生懸命演じているのだろうと楽観視していた自分を殴り飛ばしたい。こいつは本物だ。そうでなければ僕の体に起こっている現象も、先程の一瞬のうちに全裸になってしまった現象も説明がつかない。

僕は宇宙人に童貞を捧げることになってしまうのだろうか。このまま訳の分からない快感を与えられ続けて果てるのだろうか。僕は自分の心と体のちぐはぐさに恐れおののきながら、ただ彼女を見つめることしか出来なかった。

「これより交接を開始する」
彼女はそう言うと僕の股間に跨り、ゆっくりと挿入していった。

前戯も全くしなかったのに、彼女の秘部は何故か潤っていた。彼女は顔色ひとつ変えずに僕のモノを受け入れているのがまた不気味であった。これが僕の初体験となるはずなのだが、感動よりも恐怖が勝っており複雑な心境であった。
彼女はまた早口で何かを呟くと、そのまま全く動かない。だが、僕の陰茎は搾り取られるといってもいい様な激しい刺激を与えられている。もう何が何だか分からなかった。
そして騎乗位のまま、僕はすぐに射精してしまった。気持ち良かったのだが、セックスで得られるような人の温かみといったものは全く感じられなかった。ただ目の前の女に対する戸惑いと恐怖のみがそこには残った。

その後、僕は退店してその店に関する情報をやり取りしているネットの掲示板を見てみた。

『○○(今回指名した嬢の名前)は何かヤバい』
『○○は指名するな。俺と同じ轍を踏まないでくれ』
といったネガティブなコメントから、
『○○ちゃん指名3回目。どのプレイも最高に気持ち良くなれる。俺はもう慣れた』
といった歴戦の猛者からの諦観が滲み出ているようなコメントあった。

「今度はちゃんと調べてから行こう」
僕はそう呟いた。