嘘八百日記

このブログ記事は全てフィクションです。

量産型女子と遊んだ

私は現在4年生の女子大生である。曲がりなりにも女子であるため、女友達は沢山いる。今回はその中の1人と遊びに行った際の記憶を頼りに記事を書こうと思う。


ある日、彼女(友人Sとする)から一通のLINEが来た。「最近全然会えてないよね〜!元気?」といった内容だったか。Sは私と同じ学科に通う友人だ。私は「元気だよ!」と返信をし、その後最近あったことから世界情勢まで、幅広い雑談をした。その中でSが「なんか久しぶりに茶でもしばきにいかん?(彼女は東京生まれ東京育ちだ)」と私を遊びに誘ってくれた。私は二つ返事で了承した。

この時にはまだ私は知らなかった。まさかあんなことになってしまうとは……


約束の日になった。私は待ち合わせよりも10分早く到着したので、道行く人を眺めては渾名をつける遊びをやっていた。彼女が来たのは私がちょうど茶髪のいかにも軽薄そうな若者に「育ちの悪いDAIGO」と渾名をつけた頃であった。

「おまたせ〜!待った?」
私の背後から颯爽と登場した彼女の格好を見て私は愕然とした。
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ザクだった。彼女はMS-06 ジオン軍量産型MS、ザクだった。

「あれ?どうしたの?私なんか変かな?」

Sは微笑みながら私を見つめる。大学の今学期の講義が全てオンラインとなったので、私とSは最近会っていなかった。多少の変化には気づきやすい状態ではある。だとしてもだ。これは「多少の変化」と片付けてよいものなのか甚だ疑問である。

しかし、だからといって素直に変だと答えてしまえば彼女を傷つけてしまうかもしれない。私は内心の動揺を必死で隠し、「いやぁ、凄く可愛くなったなって思って、ビックリしちゃった」と無難な返答をした。

Sは嬉しそうな様子で、「ありがとう!実は最近服とかメイクに興味を持ち始めて……量産型ファッションってわかる?」と少し早口に質問をしてきた。

量産型ファッション。数年前までは周りと同じような没個性的な格好という蔑称であったが、近年ではレースやリボンといった女の子らしいモチーフを取り入れた独特な服装やメイクなどを指すのが主流になりつつある。
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しかし、それと目の前のザクとは共通点は全くないように思えた。

「最近そういうのにハマってて、ほら!このスカートなんかはまさにそうだよね」

そう言って彼女は腰周りを強調するようなポーズとなった。

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「あぁ、そこはスカートって皆呼んでるよね」
「あとはこの袖とかね」

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「……スパイクアーマーは量産型ザクの固定装備だもんね」

「フワッとしてて可愛いよね!」

それから彼女がひとしきり今日のコーデについて喋ると、私たちは適当な喫茶店に入った。正直周りの目が気になったのだが、予想に反して誰もこちらを注視する者はいなかった。それが逆に怖かった。どうやら私だけが彼女の量産型ファッションにザクを見出しているようだった。

Sは口のような部分にストローを指して器用にアイスコーヒー飲んでいる。

「お待たせしました、こちらキャラメルバナナパンケーキと、ホイップバターのパンケーキになります」
店員が2つのパンケーキを持ってきた。
「わー!美味しそう!」
Sはそういうと腰に下げていたヒートホークを持ち、それでパンケーキを切り始めた。
ヒートホークをMSとの近接戦闘以外に使っているところは初めて見た。いや、そんなものでパンケーキなんて上手く切れるのか?
彼女はこれまた器用にパンケーキ1口分に切り、フォークで口のような場所まで運んでいた。
「やっぱ美味しいね!!」
「そ、そうだね……」
Sは紙ナプキンで丁寧にヒートホークの切っ先を几帳面に拭っていた。
ザクが生クリームたっぷりのパンケーキを食べているなんて……あまりの絵面に言葉を失ってしまった。

気を取り直して、私はSと会って最初に感じた疑問をぶつけてみた。
「Sは前、ジーパンとかカットソーとかのシンプルな格好をしてたよね。なんでそういう……量産型ファッション(?)をするようになったの?」
「本当は前からこういう服が好きだったんだけど、なんか自分には似合わないんじゃないかって思ってなかなか着れなかったんだよね。でもやっぱ自分の好きな格好するのが1番いいなって気づけたんだ〜」
「気づくきっかけがあったんだね」
「私の好きなYouTuberがいるんだけど、その人が自分の好きな格好をすれば自然とその格好が似合うようになる、だから自分には似合わないからといって好きな服を選ばないのは勿体ない、みたいなこと言ってて、それに共感したんだよね〜!それからこういうファッションをするようになったな!」
と嬉しそうに語る彼女はここにいる誰よりも輝いてみえた。その笑顔をみてると、さっきまでSの格好を可笑しいと思っていた自分がなんだか恥ずかしくなった。

ファッションに正解はない。人がいればその数だけ多種多様に存在するものだ。当然人によって好き嫌いはある。だからといって自分の好き嫌いを他人に押し付けるのは全くもって良くないことだし、他人からの意見を気にしすぎるのも良くないのだろう。

他人からどう見られているかよりも、自分がどうなりたいかを優先することが大事なのだと、別人のように変わったSと会って感じた。

「凄く素敵になったね」
私は心の底から思った言葉を口にした。

Sはモノアイをキラキラさせながらにっこりと笑った。