童貞を殺す服で童貞を殺した話
俺はかつて人を殺めてしまった。今日はその時の話を記事に書こうと思う。
皆さんは『童貞を殺す服』というものを知っているだろうか。一昔前にネットで流行っていたから写真を見た事のある人は多いだろう。それは背中が大きく開いた露出度の高い服だ。
ここで言う"殺す"というのは、童貞のような女性経験の少ない男を悶絶させる、という意味で使われている。俺もそれは十分に理解していた。
だが、好奇心というのは誰しもが持っているものだ。もしかすると生命を終わらせるという意味で童貞を殺すことが出来るのかも、と当時の俺は考えてしまったのだ。
俺は1度気になるとそれが気になってしまってしょうがなくなるタチだ。その服で本当に童貞を殺せるのか試してみよう、と思ってしまったのだ。
それが全ての過ちだった。
俺は当時通っていた大学の友人A(童貞)を家に招き、『童貞を殺す服』を着た俺を見てもらい、友人が一体どうなるのかを検証することにした。
実験当日。何も知らないAは俺の家に入る。Aにはあらかじめ、ドアの鍵は開けておくから勝手に入ってくれ、と連絡しておいた。
何も知らない彼は「お邪魔します」と言いながら俺の家に上がった。
「おう、よく来たな」
準備は万端だ。俺は例の服を身につけた状態でAの前に立った。
「最近暑いからな。 涼し気な服を選んだんだよ」
彼の様子を注視しながら、俺はこの服を着ているのがさも当然かのように振舞った。
「ば……おまっ……」
Aはそんな俺を見て驚いているのか、言葉を上手く口に出せていないようだ。
「いや〜、悪い悪い。『童貞を殺す服』は本当に殺せるのか気になってさ! まさか殺せるわけないよな!」
俺は笑いながらAを見た。彼は先程と全く同じ体勢で動かないままだ。
「おい、A! どうしたんだよ〜? そんなにビックリしたか?」
俺がそう言ってもAは何の反応も示さない。
「どうしたんだよ、大丈夫か?」
俺はAの肩を叩く。するとAは何も言わず、そのままバッタリと床に倒れてしまった。
「え?」
Aは倒れたまま動かない。まさか。
俺は焦りながらAの首筋に手を当てた。
「脈が……ない!?」
Aの脈拍は完全に止まっていた。白目をむき、開いたままの口からは唾液が垂れている。
「おい! 冗談だろ!! 」
俺はAの体を強く揺さぶった。何度も何度も。
それでも、Aが起きることはなかった。
信じられなかった。信じたくなかった。唯一無二の親友を俺の手で殺めてしまったということを。
どうして俺は『童貞を殺す服』なんてものを着てAの前に出ようと思ってしまったんだ。なんでこんなことになってしまったんだ。俺の頭の中には後悔ばかりがひしめく。
それと同時に、本当にこれで殺せるとは思ってなかった、まさか死ぬとは思ってなかった、といった言い訳も脳内を巡る。
俺はAに取りすがって涙を流していた。そのままの状態で長い時間が経過したと思う。
「俺も…… 死のう……」
何の罪もないAを殺してしまった罪悪感に押しつぶされた俺は、自らの手で人生を終わらせる決断をした。
俺は数ヶ月前にソープで童貞を捨てた、所謂素人童貞だ。素人童貞も童貞と見なされるだろう。
この服を着た自分の姿を鏡で見れば、素人童貞の俺もAと同様に死ねるはずだ。
俺はリビングに置いている姿見を見るために、のろのろと移動した。
「これで……俺も死ねる…… あの世で待っててくれよ、A!」
かたく瞑った目を姿見の前で開けた。
姿見には、『童貞を殺す服』を身につけた俺の姿が写った。ノンスリーブのニットから脇毛がはみ出し、すね毛もボーボーだ。あまりにも酷い。見るに堪えない姿だ。
しかし、それを見ても俺の生命が終わりを迎えることはなかった。
「どうしてだよおおおおおお!!!!」
俺は床に崩れ落ち、咽び泣いた。俺の慟哭がワンルームに響き渡る。
素人童貞は、純粋な童貞ではない。1度でも女の体を知ってしまった男は、かつての童貞だった頃のようには戻れないということなのだろうか。
俺は呪った。自身のくだらない好奇心を。童貞であることを恥ずかしいと思い、親から貰ったお年玉でソープランドに行った過去の自分を。そして、『童貞を殺す服』なんておぞましいものをこの世に生み出したデザイナーを。
「……許さない」
俺の心には復讐の炎が静かに燃え上がった。やり場のない感情を、『童貞を殺す服』の製作者に向けることで、俺は自分の心を守っているだけなのかもしれない。
しかし、この怒りは本物だ。それは、握りしめた俺の拳が教えてくれる。
俺はその日、決意した。必ずや『童貞を殺す服』を生み出した者を葬ることを。
という訳で、現在も俺は『童貞を殺す服』を作った人間を探す旅を続けている。
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